les frères Daum : Auguste Daum(1853-1909), Antonin Daum(1864-1930)
ドーム社の歴史は1878年に始まる。仏東部地方モゼル県の公証人であったジャン・ドームが、経営破綻した「ヴェルリー・サント・カトリーヌ」をこの年に買収したのがその発端である。
1873-74年頃ナンシーで創業したこの工場はゴブレットや香水瓶などの日用的なガラス製品を製造していたが、当初より経営は振るわなかった。ジャン・ドームは創業時から経営者たちと親交があり、彼らに資金援助を行っていた。彼の死後、工場経営は二人の息子オーギュスト・ドームとアントナン・ドームに引き継がれた。その後、弟アントナンの主導で1891年頃から芸術的な製品に力を注ぐようになって、同社は大きな躍進を遂げて行く。
1901年2月にナンシー派が正式に発足したとき、アントナン・ドームは副会長を務めたが、ナンシー派にあってドーム兄弟だけが美術の専門教育を受けた経歴がなかった。
しかし、ナンシー派の規約序文にあるように、同派が製造業者と装飾美術家たちによる、郷土殖産のための組合であったことを想起すれば、芸術家ではない彼らがこの芸術家集団において重要なポストにあった理由が窺えよう。
クリスチャン・ドゥビーズ氏(現ナンシー国立美術学校教授)が、二人は「実際家」であったと指摘する通り、鋭い洞察力を持った“経営者”であった。彼らは同じくナンシー派の一員であったジャック・グリュベール(1870-1936)やアンリ・ベルジェ(1870-1937)といった才能豊かな装飾美術家たちをデザイナーとして登用し、芸術的価値の高い製品を生み出していったのである。
1900年パリ万博ではドーム兄弟にグランプリ(グループXII、クラス73、ガラス製造者部門)が、また、その協力者のアンリ・ベルジェにもメダルが授与されている。
第一次大戦後ヴァルテールはドーム社を離れ、自身の工房をナンシーに構えている。ドームの工房は1905年には400人以上の人員を抱えるまでの大規模なガラス・メーカーに成長していた。ドーム社はナンシーに現存するガラス・メーカーだが、創業者のドーム一族による経営は1987年に途絶えている。
- 1853年 兄オーギュスト・ドームが誕生。
- 1864年 弟アントナン・ドームが誕生。
- 1872年 ドーム家はナンシーへ移住。
- 1876年 ジャン・ドームがナンシーでガラスの破産工場を買い取り「ヴェルリ・ド・ナンシー」と名付ける。
- 1878年 兄・オーギュストが父のガラス工場の手伝いを開始。
- 1879年 兄オーギュストが経営に参加。
- 1885年 父ジャン・ドームが没する。
- 1887年 弟アントンが父のガラス工場を手伝い開始。
- 1889年 パリ万国博覧会でテーブルウェアを出品。
- 1891年 芸術的なガラス制作部門を設置。
- 1894年 ナンシー装飾美術展およびリヨン博覧会で金賞を受賞。
- 1897年 ブリュッセル万国博覧会で金賞を受賞。
- 1899年 アンテルカレール(技法)の特許を取得。
- 1900年 パリ万国博覧会で大賞を受賞。
- 1901年 ナンシー派が結成されるとアントナンが副会長に推薦される。
- 1914年 第一次世界大戦の影響で一時休止。
- 1919年 制作を再開。